誠品(せいひん)生活というものをご存知でしょうか。
1989年、台湾で創業されて以来、急成長を遂げた大型書店チェーン店のことです。
しかし、ただの書店ではありません。
書籍販売を中核事業にしながらも、
誠品生活は今や一大ショッピングセンター、
はたまた書のテーマパークとも言えるような展開を見せています。
香港、中国とアジア進出を果たしながら、今年2019年秋には日本の日本橋に第一号店ができることがアナウンスされました。
なぜ、日本は台湾産の誠品生活にマーケットを開いたのでしょうか。
また、どこか似ている蔦屋(ツタヤ)との関係はどうなのでしょう。
一方、ネットの登場以来20年近く、日本は出版および書店不況に陥っています。
誠品生活はその潮流を変えることができるのでしょうか。少しの間、それを考えてみます。
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誠品生活の画期的なポイント
誠品生活はまるでショッピング・センターです。
書店をメインにしながら
カフェやフードコート
文具店に日用品
ファッション
映画館なども営んでいます。
一見、イオン・モールのようですが大きな違いがあります。
まず、これだけの大型複合施設であるにも関わらず、セレクトショップがベースにある点です。
セレクトショップとはオーナーの目利き、または店員たちが共有する何らかのテーマによって、
販売する商品を自分たちで選んでいるお店のことです。
つまりは、お店お気に入りのデザイナーが手がけた文具が置いてあるような感じのお店です。
どこまで徹底しているのかは分かりませんが、ここまでの規模でそれを実践するのは大変なことでしょう。
次に無料のワーク・ショップや体験型イベントが豊富にあるという点です。
イベントに関しては台湾国内では毎年2億人もの人を集めるほどの大盛況ぶりだそうです。
工芸品やクッキングや電子機器など、もの作り体験を無料提供しながら、それに関連した商品を購入させるという戦略を取っているようです。
さらにはホテルまで隣接する計画があるそうです。
もうここまでくると、書のテーマパークと言っても過言ではありません。
また、首都台北にある店舗は何とコンビニのように24時間営業というのも目新しい所。
こういうことを知ると、誠品書店が2004年『TIME』誌アジア版でアジアの最も優れた書店に選ばれたことや、
誠品生活がアジア全域にマーケットを広げていることも理解できます。
蔦屋のモデルケース、日比谷の失敗が誘致を後押し!?
誠品生活は、最近の蔦屋(ツタヤ)に似ていると感じる人は多いでしょう。
それもそのハズ、蔦屋を運営するCCCは、東京都心部の蔦屋の基本コンセプトとして誠品生活を1つのモデルケースにしています。
今やそれは都心の蔦屋に止まりません。
私事ですが、地方の地方にあるような私の近所の蔦屋でさえ、いわゆる“誠品化”が行われています。
店舗内にはレンタル・セル売り場はもちろん、スタバ、雑誌書籍売り場、ステーショナリー、携帯ショップ、フリーWiFiのレストスペースなどがあります。
これもまたレンタルを中核にしたショッピングセンターのような感じでしょう。
つまり、多くの日本人にとって、誠品生活はすでにショッピング習慣の中に入っていると言えます。
2019年の秋、東京日本橋に誠品生活の1号店が出来る予定なのも、第一にこの流れを受けてのことでしょう。
また誠品の日本進出には「日比谷セントラルマーケット」の不評も関わっているといいます。
ここもまた新時代の大型複合書店として売り出し、セレクトショップの手法を取ったそうです。
しかし、セレクトされたものが高級品ばかりだったため、一般庶民にそっぽを向かれたようです。
誘致を主導した三井不動産は、日本人の発想ではダメだと見切りをつけ、直接、台湾の誠品生活に救いの手を差し伸べたのかも知れません。
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誠品への期待、書店不況は終わるのか
誠品生活の日本進出で大きく変わる点の1つに、洋書、洋雑誌が増えることがあるのではないでしょうか。
都会の丸善や紀伊国屋のような大型書店でも、未だにそれらは7~8階の最上階に押し込められています。
国内書ばかりを置いているという点で、日本の書店は非常にマレです。
誠品書店のように高い洋書関税をなくし、もっと洋書を混ぜれば、何かおもしろい変化が起こるかもしれません。
特に日本の文庫、単行本のブックカヴァーは、本当にいつまでたっても…という感じなので洋書と並べて置くことでいい改善の機会になるかと思います。
一方、誠品の日本進出によって、この20年以上に渡る、出版および書店不況の窮地から脱することができるのでしょうか。
誠品生活には
「Books, and Everything in Between」
という基本コンセプトがあるそうです。
In Between というのは、Between the lines.とも読めます。
本の世界でそれは行間を意味します。
それを加味すると、それは「本とその行間にあるすべてのもの」と意訳できます。
つまり、誠品生活にとって、カフェも体験イベントもホテルもすべては文字の行間にあるようなものだという意味合いがあるのかも知れません。
すべては文字の間に挟まっているものに過ぎないと。
しかし、そのコンセプトとは裏腹に、台湾国内でも誠品生活は、肝心の書籍セールスに関しては赤字を続けていると言います。
中国国内でもそうらしく、その反省からか同国では2017年からシェア書店を始めています。
つまり書籍のレンタルサーヴィスであり、ある程度の好評を得ているようです。
しかし、レンタルから書籍の売り上げに至るケースはあまりないそうです。
書店の営業努力よりも求められるものとは
誠品生活も中国のシェア書店も、ある共通の狙いを持っています。
本の売り上げが上がらなくても、本に触れるきっかけを作れれば、それなりの文化貢献にはなるということです。
それは書籍というものの限界を知った素晴らしい考え方だと思えます。
本とは、どうやってもテーマパークには収まらないものだからです。
例えばチームラボのようなクリエイト集団が、書籍ミュージアムのようなものを作ったとします。
中に入れば、3DPMによって川の流れと共に村上春樹の小説センテンスが流れたり、AIシンガーによって又吉直樹の小説が即興で歌われたりといったことが起こるとします。
それはそれで楽しいでしょうが、やはり本を読む喜びそのものとは違います。
誠品生活の狙いと同じく、あくまでそれは書籍に向かう第一歩に過ぎないことでしょう。
書籍、文章が活躍する舞台とは、人のこころや頭の中です。
それだけはどんなに時が流れても変わることはないでしょう。
出版・書店不況を脱するには、作家と編集者が新しい時代に追いつくこと、または高額の固定価格制度、再販制度を見直すなどのベース改革がなければ出来ないことでしょう。
そういったことは、誠品生活や蔦屋などが手を出せる世界の外にあるのです。
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