STEM教育と聞いてピンとくる人は、あまりいないのではないでしょうか。
TVや新聞など大手マスコミは、ほとんど取り上げませんし、そもそも日本では教育への関心もあまりありません。
国の教育投資という点で、日本が先進諸国に比べて極めて低いということは広く知られている事実です。
STEM教育とは、端的に言えばテクノロジーの分野においてイノベーションを起こせる人材を育成するための教育政策のことです。
欧米先進国の中では21世紀初頭に台頭し、すでに確立されています。
一方、日本ではかなり遅れています。
公教育においては、つい2~3年前にその芽吹きがあったというような段階です。
今後、日本の教育界において、STEM教育とは必修の教科になるのか。
具体的な内容はどういったもので、学ぶ意義はあるのか。
またはそのメリット、デメリットはどこにあるのか。そういったことについて、少し探ってゆきます。
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STEM教育の持つ危うさ
STEM教育とは、21世紀初頭のアメリカ教育界で大きなパラダイム転換をもたらしました。
STEMとは、“Science, Technology, Engineering and Mathematics” の4つの頭文字を取ったもので、科学・技術・工学・数学の4つを意味します。
具体的に言えば主に情報科学、経済学、心理学、生命科学、物理学、天文学といった学問分野になります。
かなり幅広いので分かりづらいですが、大体は理系だと思っていいでしょう。
特にコンピューター・サイエンスに進みたい人向けの教育モデルです。
そもそもテクノロジー業界の人手不足解消が、当初のSTEM教育の最たる目的でした。
しかし、20世紀型の一分野集中型の理系人材を育成するものではありません。
イノベーションを起こすために、想像力や読解力やコミュ能力なども同時に養うようなカリキュラムになっています。
オバマ大統領は、STEM教育を国家戦略として強く推進したことでも広く知られています。
ちょうどリーマンショックによってアメリカ経済を新たに立て直さなければならない時代でした。
また、オバマの大きな支持層であるシリコンバレーのリベラルな起業家たちも、この教育モデルを推進する立場でした。
GAFA、つまり、
グーグル
アップル
フェイスブック
アマゾン
のネット業界4天王とは、
この教育政策のパラダイム転換によって優秀な社員を獲得し、
それを原動力にしたとも言えるのではないでしょうか。
しかし、この5~6年の間に、STEM教育には数々の疑いが投げかけられています。
テクノロジー分野での労働力不足はそもそも存在せず、ただ国が特に国防のために理系人材を強引に増やすために行った政策ではないか。
STEM教育の先には、かつて米ソの宇宙開発競争が終わった後に起こったような科学分野での大量解雇があるのではないか。
STEM教育を受けた者でも、その分野の専門職に就く人はあまりなく、賃金水準の方もそう高くはないのではないか。
このような疑いの声が多々出てくるようになりました。
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読解力や想像力が引き出すSTEM教育の将来性
STEM教育は、世界において大きな曲がり角に来ていると言えるでしょう。
しかし、そんな時、皮肉にも日本でようやくその芽吹きが出てきました。
文科省は2020年度からの小学校でのプログラミング授業の必修化の検討を明言し、スーパーサイエンス・ハイスクールと呼ばれる全国に200校以上ある専門校の支援をしています。
今後、日本ではSTEM教育を積極的に推し進めるべきなのでしょうか。
また、これからの子どもたちは、その教育を熱心に受けるべきなのでしょうか。
落合陽一という人物が、その大きなヒントを示しているように思えます。
筑波大の研究者でありながら、メディアアーティストだとも自負する31歳の青年は、今やマスコミの風雲児です。テクノロジーの分野でトップランナーであるばかりでなく、その言論も大いに注目され、「朝まで生テレビ」など様々な討論番組でも重宝されています。
一方、落合はSTEM教育的なものについて、あまり価値を見出していないようです。
著書『これからの世界をつくる仲間たちへ』の中では、こういった指摘があります。
算数もプログラミングも英語も、ただ目的を果たすための手段、道具に過ぎない。
大切なのは、自分のアイデアを文章としてロジカルにまとめ上げ、それをシステムにすることだ。
AIの新時代が始まった今、STEM教育は今後も有意義であり続けるのでしょうか。
それだけで、落合陽一のようなイノベーターは次々に誕生するのでしょうか。
読解力や想像力という点をより重視すれば、STEM教育は今後も多くの生徒に対してメリットを生み続けることでしょう。
しかし、単なる理系人材の育成に終わるのであれば、ほぼデメリットしかないでしょう。
あらゆる機会的な作業は将来、AIがすべて代替できるからです。
まったく違うところから得たアイデアを巧妙に生かしたり、無数の情報網に的確な筋道をつけて1つにまとめ上げたりすること。
それはAIの最も不得意とすることです。
STEM教育が、こういう創造性や論理性を養う方向性によりシフトすれば、今後も有意義な教育モデルであり続けられるのではないでしょうか。
落合陽一が大人気なのは、何よりもその多様性にあるでしょう。
テクノロジーは元より、その知識は政治、経済、ポップカルチャーに至るまで、極めて幅広いものです。
その境界線を越える知的好奇心こそ、イノベーションの元になるものではないでしょうか。
今後行われえる日本のSTEM教育が、もし今ある公教育のように縦割りに硬直したものになれば、その意義は大いに失われることになるハズです。
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