NHKの朝ドラ100回記念作『なつぞら』が放送から約3ヶ月を迎え、半分の折り返し地点に入った。
直近の6月17日から22日までの週間平均視聴率(ビデオリサーチ調べ)が、関東地区で21.6パーセントを記録。
数字上は4月スタート時の絶好調ぶりをキープしている。
だが、その一方、関西地区では同週の最高視聴率が19パーセントと振るっていない。
果たして『なつぞら』は、関東の視聴率に見合う内容なのだろうか。
そこで、長所と短所を織り交ぜ、他の朝ドラとの比較検証も入れつつ、これまでの率直なレビューを書きたい。
また、『なつぞら』の視聴率の推移から読み解ける朝ドラの強みにも迫りたい。
そして、ドラマの設定が現実の日本アニメ草創期を元にしているからこそ予想、期待できる今後の展開にも触れたい。
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なつぞらの最大の魅力は広瀬すずの声!?
『なつぞら』は、ヒロインのなつの成長物語である。
その奥原なつは、奥山玲子という日本アニメ界の草創期を作った実在の人物をモデルにしている。
半年のドラマは、2ヶ月ごとに3期に分かれる。
1なつが戦災孤児として北海道の酪農一家で育てられる少女期。
2東京でアニメーター修行を始めた青春期。
そしておそらく最後の8月~9月間は、
3なつが夫と共に日本アニメの代表作を作り続けた熟練期になるだろう。
現在の放送回は青春期の真っ只中であり、なつは新人アニメーターとして日々奮闘している。
北海道時代と東京時代、共通していえる最大の長所は、やはりヒロインを演じる広瀬すずになる。
かわいいのはもちろん確かな演技力もある。
その上、なつの祖父を演じた草刈正雄もよく指摘するように声までいい。
草刈は「セクシーな声だ」と言うが、そこには独特の癒しの響きがある。
大勢の人を自然と引き寄せる魔力とでもいえるものがあるのだ。
広瀬すずの演技力とその存在感が、関東地区での視聴率の高さに直結していることは間違いないだろう。
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なつぞらは回りの誰も不幸にしないヒロインの人生
一方で、筋の方に難点がある。
なつのモデルになった奥山玲子は、東北出身で大学時代に半ば家出し、上京してアニメーターになったという経歴を持つ。
なつの方も、葛藤がありながら酪農一家を継ぐことなく、東京に出てゆく。
モデルの奥山は家出同然の上京ということからも、家族を捨てる覚悟でアニメーターの道に進んだはずである。
一方のなつは、東京で新人アニメーターとして重宝されながら、故郷の北海道の家族からも変わらず寵愛を受けている。
これは明らかに甘すぎる展開だ。
『なつぞら』に限らず、朝ドラの共通した欠点は無理やり大団円にしようとすることにある。
つまりヒロインが回りの誰も不幸にしないような人生を送るということだ。
それは夢物語でしかない。
関西では『なつぞら』の視聴率はスタート時点から半年たってからも悪いままだ。
大阪人の多くは現実的である。
なので理想通りに人間が生きられないことを熟知していて、そこに人間らしさを見出している。
だからこそ、綺麗すぎるこのドラマにウソっぽさを感じているのかもしれない。
「せめてドラマでは、いい人やいい物語を見たいじゃないか」という人の気持ちも分かる。
だが、あまりに良すぎるとファンタジーになってしまい、現実に生きる人との接点を失う。
そうは言っても結局、朝ドラとはそういうものなのだろう。
おそらく多くの視聴者は、朝出かける前にドラマを通して、さっきまで見ていた夢のつづきを見たいのかもしれない。
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なつぞらは年齢層のターゲットを変えられる長期ドラマの強み
『なつぞら』の視聴率は関東地区でも一時、20パーセント以下に落ち込んだことがあった。
北海道の1部から東京の2部に移るときのことだった。
だが、数週間で視聴率は回復し、完全に勢いを取り戻している。
この手の変動は、他の朝ドラでも見られることだ。
この視聴率の推移には、そのまま朝ドラの持つ根本的な強さが出ている。
それは朝ドラがときに応じて、老若男女、全世代をターゲットにできるということだ。
『なつぞら』の第一部は、北海道の酪農一家の話であり、明らかに高齢者層をメイン・ターゲットにしていた。
一転して東京の第二部では、中年層と若年層がターゲットになった。
二部で描かれる日本アニメは今も若者の中心文化であり、10代の子供たちでもその草創期には興味がわくものだろう。
視聴率が落ちるのは、年齢層の入れ替わりる過渡期である。
しかしそれが成功すれば、同じだけの視聴者を獲得することができる。
もし『なつぞら』が一部で高齢者層の取り込みに失敗していたとしても、第二部の転換で若年層を取り込んで巻き返すことができていただろう。
ここに半年も続く長期ドラマの大きな強みがある。
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なつぞらの最終、第3部で予想される日本アニメ界の危機
成功した他の朝ドラと較べると、『なつぞら』はどう見えるだろうか。
『あさが来た』ではヒロインのあさが炭鉱夫と大ゲンカしたり、女子大学を作ったりして、波乱万丈な人生を見せてくれた。
『マッサン』では鴨居の大将が名物キャラとしてドラマを牽引し、『あまちゃん』では朝ドラを根底から覆すポップで可笑しなテイストが話題になった。
率直にいって『なつぞら』にはそれら全てがない。
よくも悪くも地味なのだ。
ここまで視聴率が高いのはやはり、朝ドラ100回記念作という冠がついているからではないだろうか。
日本人に限らず、人は何か記念的なことに心惹かれるものだ。
今後も視聴率が大きく落ちることはないだろう。
今後の展開、8月から9月の第3部は、実際にあった日本アニメ界の危機が描かれるはずである。
現在、なつが勤める会社は東映動画を元にしている。
制作現場トップの仲さんは、実在した東映の森康二だといわれている。
森は東映時代、なつのモデル、奥山玲子や言わずと知れた高畑、宮崎を育てた人物である。
井岡新演じる仲さん同様、温厚な人物だったそうだ。
だが、大量リストラを機に会社と対立し、タフな労使交渉を経て独立。
その後も、高畑や宮崎と共に『アルプスの少女、ハイジ』などを作ることになる。
『なつぞら』の3部も、こういったストーリーであれば魅力的になるだろう。
ごう慢な会社経営とは今にも通じる社会悪である。
だが、ドラマがこの点をスキップすれば、ますます筋は甘くなってゆくだろう。
ただでさえ、なつは社内で甘やかされすぎている。
アニメーター採用試験のチャンスを何度も得たり、仲さんから可愛がられたり、失敗してもチーム全員が上司から守ってくれたりする。
ネット上にも、そんな批判の声が上がっている。
東映の労使交渉は、日本アニメ界の転換点ともいえる出来事だ。
おそらくここをどう描くかが、今後の『なつぞら』のドラマの質を大きく左右することだろう。
そう、あと1つ気になるのが内村輝良によるナレーションだ。
半年のちょうど折り返しとなる今週になって、初めて最後のナレーション部がなくなるようになった。
はっきり言ってそれは賢明な判断だ。今後もそれはなしであってほしい。
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