ディズニーのアニメ映画でおなじみの『リトルマーメイド』が実写映画になるに当たって、ヒロインの人魚姫・アリエル役に抜擢された女の子が注目を浴びている。
それは彼女が黒人だからである。
その名はハル・ベイリー、まだ19歳の新人歌手だ。
人魚姫といえば大昔から白人が演じるのが当たり前のもので、『リトルマーメイド』のアニメ版でもアリエルは髪こそ赤いものの白い肌に青い瞳の少女だ。
極めて保守的な価値観を持つウォルト・ディズニーの配給ということもあり、人魚姫に黒人起用という大胆なチョイスに世界中から驚きの声があがっている。
しかし、『リトルマーメイド』のテーマに沿うとアリエルには人種的なマイノリティの方が合っているともいえる。
この大胆な起用について、本作の深読み解釈も合わせて探ってみよう。
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リトルマーメイドは実社会が反映されたアニメ作品
まず『リトルマーメイド』がどういった話なのか見てゆこう。
原作はアンデルセンの童話『人魚姫』であり、それをウォルト・ディズニーが気に入ってアニメ化したのだ。
1989年以来、今に至るまでアニメはシリーズ制作され続けている。
ヒロインの人魚姫・アリエルは16才で、海底にあるアトランティス王国のお姫さま。
あるとき嵐で難破した船から人間の王子・エリックを救出したことから、アリエルは恋に落ちる。
地上の世界で再会したい思いから、彼女は海の魔女・アースラに頼んで、その美声と引き換えに脚をもらう。
そして3日以内にエリックとキスを交わさなければ、アリエルはアースラのものになってしまうという契約も交わす。
アースラにはある思惑があった。
アリエルの父から追放された身の彼女は、再びアトランティスに返り咲いてその実権を握りたいと狙っていたのだ。
そのためエリックと再会したアリエルにキスをさせまいと陰謀を張り巡らせる。
こういったものが『リトルマーメイド』の大筋である。
一方、NHKの朝ドラ『なつぞら』では童話『ヘンデルとグレーテル』を元にして短編アニメを制作するという筋がある。
そこではアニメーターたちが物語の案を練りながら、同時に戦争や貧困といった実社会の要素もすりあわせようとしている。
このように大抵のアニメ作品は、現代社会に通じるテーマも意識して作られている。
『リトルマーメイド』もその例外ではない。
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黒人のハル・ベイリーが人魚姫・アリエルに適役なわけ
アリエルとエリックは共に王家出身だが、それぞれがまったくの別世界である。
地上に出ればアリエルはマイノリティであり、王子・エリックとは階級の壁がある。
そこには現実の不平等や差別といったことが当てはまる。
その間を取り持つ海の魔女・アースラは政治家にも通じるものがある。
平等を掲げ人々を1つにするように誘いながら、実は権力を握る思惑を持っているのだ。
そしてそのために庶民から大切なものを奪ったり、汚い陰謀劇を仕組んだりもする
アリエルとエリックの恋とは、そんな闇の政治力に抗うものとしても位置づけられるだろう。
アリエルはマイノリティ、エリックはマジョリティの代表として、その恋は世界を1つにするという普遍性をも持っている。
そのためテーマと照合するならアリエルは、人種的なマイノリティの方が合っているといえる。
人魚姫のイメージには合わなくても、本質的には黒人の女の子がピッタリなのである。
監督のロブ・マーシャルも、アリエルを演じるハル・ベイリーの見た目にはこだわっていないようだ。
その選考理由について、彼はこう言っている。
「ハリーは精神、ハート、若さ、純真さ、重要性、そして見事な歌声という、このアイコニックな役柄を演じるのに必要な全てを兼ね備えていました」
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ハル・ベイリーとハル・ベリー
ハル・ベイリーについて紐解いてゆこう。
彼女は姉・クロエと「クロエ×ハリー」というデュオを組み、YouTube動画でビヨンセの歌をカバーしたことで有名になり、そのままビヨンセのレーベルでデビューした経歴を持つ。
まさにディズニー級のシンデレラ・ストーリーである
動画を見ると、ハルは妹らしくカワイイ印象を与える。
多くの黒人シンガーに見られるよう「どうだ」とパワーで押すのではなく、じっくりと丁寧に歌い上げるスタイル。
歌声はとても女性的でカワイらしく、小柄なので日本でも人気を得るのではないだろうか。
それにしてもレディー・ガガといいアギレラといい古くはピアフといい、歌の超上手い女性はなぜみんな小柄なのだろうか。
ハル・ベイリーという名前には、ハリウッド映画ファンであれば「あのハル・ベリーなの?」と一瞬思ったのではないか。
ハル・ベリーは確かにスタイル抜群の黒人女優だが、人魚姫を演じるにはやはり年を取りすぎている。
つづりもまた、Halle Bailey, Halle Berry とすごく似ている。
おそらくベイリーの母はハル・ベリーを意識してそう名づけたのかもしれない。
ハル・ベリーは2001年、黒人女優として初めてアカデミー賞の主演女優賞に選ばれた経歴の持ち主だ。
その後、彼女はボンド・ガールにもなった。
歴史は繰り返すというが、ほとんど同じ名前の少女が今度は黒人として初めてディズニー映画でプリンセスを演じることになった。
『リトルマーメイド』がアカデミー賞にノミネートされれば、もしかすればレッドカーペットで世代間を越えて2人のハルが抱き合う姿が見れるかもしれない。
政治がどんどん保守化する一方で、特にポップカルチャーは人種的な多様性を日ごとに増している。
ハル・ベイリーの人魚姫・アリエルが世界中で喝采を受ければ、この世はまた少しだけよい場所になるだろう。
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