6月に入って日曜日が来るたびに、香港のデモは100万、200万人と激化していった。
しかし、3回目の日曜日となった昨日、6月23日には大きな動きがなかったようだ。
日本のメディアも世界の主要メディア、BBCやCNNやNYTなども、ヘッドラインに香港を取り上げてはいなかった。
おそらく香港市民の多くは勝利を実感しており、それに伴ってデモが沈静化しているのだろう。
先週末、デモ隊が香港の警察本部を包囲したことが、1つの大きな区切りになったのではないか。
それはデモの勝利を決定づけるものだった。
デモを主催する市民グループの代表は、すでに今週末のG20サミットに向けての運動に切り替えようとしている。
香港市民には、G20に集まる世界の主要国に対し、香港や中国に国際的な圧力をかけて欲しいという狙いがあるようだ。
7月1日の香港返還記念日が近づくなか、果たして、香港市民の次なるゴールはどこにあるのだろう。
それに対し、習近平の電撃訪朝で北朝鮮との仲を深めた中国の思惑はどうなのか。
そして、G20のホスト国、日本にとって、この香港デモはどんな意味を持つのだろうか。そういったことを探りたい。
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デモ隊の倫理ある実行力が導いた勝利
先週末、金曜日の夜から土曜日の朝にかけて、デモ隊は香港の警察本部を包囲した。
政府本部が閉鎖されたため、人々は警察や税務当局に流れていったのだという。
デモを率いた1人は、2014年の雨傘運動でも学生リーダーを務めていた黄之鋒(こう・しほう)だった。
黄は運動の余波で実刑判決を受け、数日前に釈放されたばかりの身だった。
そのさい彼はマスコミにデモに加わると言ったが、まさに有言実行、その通りに行動した。
デモ隊は16時間に渡り、警察本部に居座り続けた。
そして朝、政府が改めて逃亡犯条例の改正案を廃案にしたことをアナウンスしたことで、解散することとなった。
輝かしい勝利といえるだろう。
なぜ、香港デモはここまで成功したのだろうか。
最も大きいのは、以前もここで指摘したよう、経済大国になった中国がグローバリゼーションにがんじがらめにされていることだ。
習近平はくまのプーさんのごとく、甘い蜜にしがみつくために、民主国家のフリをし続けねばならないのである。
香港デモを武力で制圧するなどもっての他だ。
この中国の無力化と等しく、デモに実行力があるという点も成功の最たる要因だ。
香港デモは、政府を始めとした香港の行政の動きを実際に止めた。
そして、それは暴力的なやり方ではない。
政府や警察前の幹線道路を塞いだり、抗議の訴えで勤めに出る政治家の足を止めたり、といったことをしているのだ。
どんな政治家でもまともに仕事ができなくなれば、自ずと市民に妥協するものだ。
香港デモの実行力は、知的に抑制された暴力と言える。
もちろん少なからず、怒りに身を任せる者もいる。
だが、香港デモの大多数は飽くまでそれ以上の力を用いていない。
16日の200万人デモで、群衆の中に救急車が入ったとたん、人々が速やかに道を開けることがあった。
そのニュース映像を受け、欧米メディアはまるで「モーゼの十戒」だと報じた。
香港デモは実行的でありながらも倫理は守っている。
だからこそ、世界中から応援されているのである。
そして、それは反原発デモと反安保デモの2回にかけて失敗に終わった日本のデモのあり方にも、大きなヒントを与えるものだろう。
⇒香港デモの場所や経緯は?救急車の話題でモラルの高さも?観光には行けるの?
⇒逃亡犯条例とは?香港のデモが中国に与える政治的影響を詳しく解説!
⇒香港デモの成功理由とは?市民の危機感や怒りの原動力と今後を徹底解説!
デモで卵が重宝される理由とは
香港デモの人々は、ときに卵を使う。
政治家や警官に卵をガンガン投げつけるのだ。
ここにも、香港デモの倫理ある実行力がうかがえる。
卵は欧米諸国のデモでもおなじみであり、卵以外ではトマトやアップルパイが人気だ。
共通点は安いこと、当たっても痛くないこと、そして後々長く臭いが残ることである。
ほとんどの国では卵をぶつけるくらいでは逮捕されない。
そのため、デモの人々はリスクなく自らの怒りを直接ぶつけることができ、なおかつ嫌な臭いをつけることもできる。
卵と民衆といえば、村上春樹の「卵と壁」を思い出す。
2009年、村上は文学賞の1つ、エルサレム賞を獲ったさい、現地での受賞スピーチで「卵と壁」と題された文章を読み上げた。
そこで彼はこう言う。
「高くて硬い壁と、壁にぶつかって割れてしまう卵があるときには、私は常に卵の側に立つ。そう、壁がどんな正しかろうとも、その卵がどんな間違っていようとも、私の立ち位置は常に卵の側にあります」
壁は権力、卵は民衆のメタファーであり、政治的に波風を立てない村上らしいステートメントである。
香港デモの人々も、ただその実用性だけを見て卵を用いているのではないだろう。
卵には、将来、壁にぶつけられて割れるかもしれない自分自身の姿が投影されているのかもしれない。
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中国に何も言えないG20主要各国
中国の元首、習近平は先週、北朝鮮を電撃訪問した。
それは就任以来、初の訪朝だった。
そこには確実に香港デモが大きく影響している。
G20で世界中の政府トップと会う前に、中国は香港デモ、または天安門事件30周年などによって、大きく国際的な信用を落とした。
そこで、習近平は、世界の懸案事項である北朝鮮問題に積極的に関わるポーズを取って、信頼回復を図ったのだ。
おまけに北朝鮮に行けば、習近平は自分が民衆の人気者だとアピールできる。
実際、数十万のピョンヤン市民は、パレード中の習を大歓迎していた。
だが、そんなものを見て、一体どの国が、中国に好印象を持つのだろう。
習近平は北朝鮮にわざわざ行きながら、肝心の非核化については何も発言していない。
それだけで、中身のないポーズ外交だと分かる。
G20のホスト国、日本は中国にどう出るべきなのだろう。
今や、日本経済も中国ハイテク企業の一大下請け産業となっている。
そのため香港問題には指一本すら触れられないだろう。
他国も同じようなものだ。
貿易戦争をしかけるアメリカでさえ、ビジネスを優先してスルーするだろう。
結局、中国が天安門事件のような暴挙に出ない限り、日本も世界も中国とはグローバリゼーションの甘い蜜を吸いあう仲でいたいのだ。
トランプ、習近平、プーチン、安倍、マクロン、G20大阪では、こういったトップの面々が一同に顔をそろえるだろう。
それを見れば、多くの人が「これじゃ世界がよくなるわけがないよ」と嘆くことだろう。
不運にも最悪のプレイヤーが勢ぞろいした今の政治に期待などしてはいけない。
香港市民のように、卵を政治家にぶつけた方がよっぽどいいだろう。
どんなに卵をぶつけても壁が崩れることはない。
だが、投げ続けなければ何も始まらないのだ。
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