レンタルなんもしない人(ぼく)
というのが今、世間からささやかな脚光を浴びている。
なんもしない自分を貸し出す
サービス業をやっている人なのだが、
その人自身、またそれを利用する人は
一体どういう人たちなんだろう。
一方で、人材派遣の運営会社による
レンタル彼女やレンタル家族などとは、
どういう点で違っているのだろうか。
レンタルなんもしない人は今や、
NHKのドキュメンタリー番組でも
取り上げられるほどの人気者だ。
一方で、ツイッターでの
女性蔑視コメントによって炎上することにもなった。
なんもしない人とそれを取り巻く人や
社会を読み解いて、
今何が起こっているのか、探ってみたい。
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こころの中の穴をリアルに埋めてくれる、なんもしない人
レンタルなんもしない人というのは、
なんもしない人が2018年に
ツイッターで始めたサービスである。
キャッチコピーは
「ごく簡単な受け答え以外、できかねます」
依頼者は、依頼文書さえ通れば、
交通費や飲食費などをはらうだけで
その人をレンタルできるという。
女だけの飲み会なので男よけのために来てほしい。
好きな映画を一緒に映画館で観てほしい。
離婚届の提出の際に夫との間に入ってほしい。
顧客層としては大体、
こういう感じになっている。
一方で、レンタルなんもしない人は
公に姿を見せて、素性を明かしている。
男性で現在35歳、
既婚者で2歳のこどもがいる。
出版社で働いた後、
フリーライターになるが、
そのうちなんもしたくないという思いがつのり、このサービスを思いついたそうだ。
特異な点は、
これがボランティアだということだ。
なんもしない人はほぼ無償で
このサービスを続けているらしい。
ネット上では、
彼がビットコインなどへの
投資がうまくゆき、
お金には困っていないという噂も上がっている。
そして、無償という1点に、
レンタル彼女やレンタル家族などとの違いが出ている。
私はレンタル人材というものに不気味さを感じる。
資本主義がついに恋人や家族といった
最もプライベートな部分にまで入り込んできたのかという思いがする。
一方、なんもせず無償という、
なんもしない人の態度は、
素のつき合いが出来ることを物語っている。
なので顧客の多くは、
ただ寂しい人たちではない。
こころに空いた何らかの穴を
演技ではなくリアルに埋めてくれる人を探しているのだ。
そこには、
レンタル人材とは真逆の方向性がある。
特に東京のような都市部では、
多くの人が今、リアルに素でいられる
居場所をどんどん失っている。
だからこそ、
なんもしない人が大ヒットするのである。
一般的にもレンタル人材サービスには
陰湿さがつきものであるが、
なんもしない人にはそういうものが感じられない。
NHKの特集では、
そんななんもしない人の
密着ドキュメンタリーが流された。
ネット上の視聴者のコメントを見ると、
“人になんもしないということの偉大さが分かった”
とか
“どんな人にもリアルに寄り添えるその寛容さがすごい”
などという好意的な反応が目立った。
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なんもしない人の人気と共にふくれあがったプライドが火をつけた炎上事件
その反面、なんもしない人は一度、
ツイッターで炎上騒ぎを起こしている。
“レンタルなんにもしない人とかプロ奢ラレヤーって男性だからできると思うんだ”
プロ奢ラレヤーというのは、
文字通り、おごられて飲みの場を盛り上げるサービスをしている人たちのことだ。
まぁ、演技が入るという点でレンタル彼女などに近いものと言える。
そして、この一般女性によるツイートが、
なんもしない人をなんか言う人に変えた。
あなたが男でも、
こんなサービスは出来ないよと突き返したのだ。
女性は、女だとそういうサービスは
出来ないという事実を言っただけだと応酬。
そして、なんもしない人は、
そんなのはただの泣き言だ
という暴言をはくことになった。
ネットの一般コメントにもあったが、
これは女性のセクハラへの共感力がゼロの典型的な日本人男性の考え方である。
なぜ、なんもしない人は、
ここまで腹を立てたのか。
それは彼が人気や名声を得たことで、
妙なプライドを持ってしまったことにあるのではないか。
最初の女性のツイートには、
このレンタルサービスが男性ならではの発想だという見方が介在している。
もっと言えば、
男性であれば誰でもできる
ようなことではないか、
という見方もふくまれている。
なんもしない人が怒ったのは、
それにプライドを傷つけられたからだろう。
つまり、彼の中には
自らのサービスが男性、
女性に関わらず、
中々思いつけないものであり、
かつ実行することも中々出来ないものだという自負があったのだろう。
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一期一会のユートピア願望を体現する、なんもしない人
客観的に見て、
レンタルなんもしない人は、
その発想において極めてユニークである。
レンタル彼女やプロ奢ラレヤーなどとは
比較にならないものだ。
だが、実行するのは
それほど難しいことではなく、
男性であればなおさらそうだ。
なんもしない人自身も当初、
そういう軽いノリでサービスをこなしていたのではないか。
だが、ネット上で大人気になり
本が出てTV出演も果たす中で、
彼の中のエゴがどんどん膨張していったのではないか。
つまり、自分はなんもしない人ではなく、
なんかすごいことをした人なのだと思い込むようになったのだ。
それがネットを炎上させた
彼の暴言につながっているように思える。
レンタルなんもしない人の
顧客層も変わってきているのではないか。
当初、なんもしない人の利用者の多くは、
自らのこころの中の穴をウソのない形で人に埋めて欲しいという人たちだっただろう。
なんもしない人とは、
なんもない人ではない。
そこには、
どんな生き方も認められる多様な価値観、
どんな人にも寄り添える親愛性といった人間的な魅力も潜んでいる。
どこか人とは違った自分を認めて欲しい。
家族にも言えないことを
見ず知らずの人に話してみたい。
なんもしない人は、
根本的にそういった欲求に応えるものだった。
だが、今、YouTubeで、
なんもしない人を検索すると、
彼が高級車ランボルギーニに乗った動画が一番に出てくる。
それに象徴されるよう、
名声を得たことで彼は恵まれた人たちの宣伝道具になってしまったのではないか。
もし、この路線にハマってしまったなら、
このサービスはすぐに消費されてしまうだろう。
私は、レンタルなんもしない人が、
どんどん増えていって欲しいと思う。
男女構わず誰もがその日その日で
色んな人と出会えるような、
そんな時代になれば。
このサービスには、
そんな万人のユートピア願望もふくまれているだろう。
その未来社会の芽吹きの1つとして、
レンタルなんもしない人は、
今という時代になにかを成したに違いない。
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