日曜夜の8時放送、NHKの大河ドラマ『いだてん』が、どん底に落ちている。
2019年、4月28日放送回で、大河史上最低の視聴率7.1%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録。
2月以降、10週連続で視聴率1ケタ台を更新し続けている最中でもある
失敗の要因は数多く挙げられているが、的外れなものも多い。
では、『いだてん』の低視聴率の真の要因は何なのか。
そして、ファンも多いというこの大河ドラマに巻き返しのチャンスはあるのか。
それについて書いてみたい。
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いだてんの歴史的低視聴率の的外れな2つの失敗要因
裏番組、『ポツンと一軒家』が絶好調ぶりが、『いだてん』をつぶしたというのはよく聞かれるが、それは的外れな指摘だ。
日曜夜8時の地上波TV枠ではずっと、NHKの大河と日テレのイッテQの2つがライバル関係にあった。
だが、大河は『いだてん』の不振、イッテQはお祭り男企画の捏造疑惑以来、一気にマンネリ化したことで、共倒れ状態になった。
『ポツンと一軒家』の高視聴率ぶりの要因は、その二大番組から離れた視聴者の受け皿になったことが第一に挙げられる。
この二大番組の質が落ちたことで起こったブームであり、自らの力で日曜8時の枠を奪ったワケではないのだ。
リレーする主演の2人に華がないという意見もよく聞かれ、確かに一理はある。
1人は歌舞伎俳優、もう1人は脚本家も属する劇団の看板俳優ということで、内輪で優遇された印象を与える。
また、どちらも大河ドラマを背負うに十分な人気や実績がないと言える。
だが、前回の朝ドラ『まんぷく』にしても主演した夫婦はいずれも有名俳優ではなく、見た目も普通の2人だった。
さらにヒロインの安藤サクラが、親の七光りからオーディション抜きで抜擢されたこともよく知られている所だ。
だが、それでも視聴率は非常に良かったのだ。
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保守の牙城に切り込んだ革新派のクドカン
『いだてん』の敗因の核心には、クドカンこと宮藤官九郎がいると私は見ている。
しかし、クドカンの脚本が悪いワケでも、クドカンの才能がないワケでもない。
ただ、クドカンは間違った戦場に行き、さらに間違った戦い方をしているのだ。
保守、中道、リベラルという政治的な区分けで言えば、脚本家クドカンは基本、左よりの真ん中、つまり中道リベラルである。
一方で大河ドラマという枠は保守と中道の牙城だ。
まずそこから合わない。
『いだてん』の保守的な視聴者の多くは、クドカンの斬新な展開についてゆけない。
その一方でクドカンのファンやターゲット層、中道リベラルはNHK大河という枠自体に興味がないので、最初から見ようとさえしない。
これでは、視聴率が取れるはずはない。
NHKが大河ドラマにクドカンを大抜擢したのは、彼の脚本による朝ドラ『あまちゃん』の社会現象にまでなった大成功が認められてのことだろう。
だが、朝ドラ枠は、主に中道と中道リベラルに染まっている。
なので、クドカンが大々的に受け入れられる地盤があったのだ。
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いだてんより走りすぎたクドカン
具体的にドラマを見ると、まず『いだてん』は落語家が話す架空の話『オリムピック噺(ばなし)』をベースにしている。
つまり、物語を第三者的に見る視点を軸にしたメタフィクションという手法を取っている。
しかも、その落語家の話までストーリーの中に組み込まれている。
そして、これは実際にあった歴史をベースにしてもいる。
つまり、『いだてん』はフィクションとリアルがごちゃまぜになった虚実混交の物語なのだ。
さらに、明治と昭和の2つの時代が入れ替わる超時系列展開も加わる。
こういったやり方、構成は、ストーリー作家として明らかにリベラルだ。
ただ舞台や登場人物は古典的なので全般的には中道リベラルと言える。
それでも、普段、大河ドラマを見続けている人たちには、到底ついてゆけるはずはない。
クドカンにもおそらく大河枠が保守の牙城だという意識はあったはずである。
だが、そこで彼は俺がその視聴者の土台を変えてやるという野心を持って、『いだてん』に挑んだのかも知れない。
実際、彼は『あまちゃん』によって、中道が主だった朝ドラ枠の土台を、中道リベラルに染めるという離れ業をやってのけたのだ。
だが、朝ドラ枠は『あまちゃん』以前から『ゲゲゲの女房』などによって、趣向が新しくなってきていたのだ。
一方で、大河枠はここ10年、変化の兆しさえなく、ずるずると惰性を続けていた。
クドカンは、いだてんよりも速く走りすぎてしまった。
リベラルな改革者にとって、そこはあまりに無謀な戦場だったのだ。
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大きな分岐点を迎えたNHK
どん底にある『いだてん』が今後、まさにいだてんの快走で一気に追い上げることは極めて難しいだろう。
だが、チャンスはある。
実話ベースのこの話は、よく見れば好奇心をそそる。
1964年、日本初開催のオリンピック、東京五輪までのほぼ半世紀に渡る知られざる実話が背景としてある。
1912年、日本が初めて参加した夏のオリンピックから、戦争で消滅した東京五輪やヒトラーのいたベルリン五輪などを経て、1964年にたどりつく。
その経緯が大スケールかつグローバルで興味を引く。
また、酷評の一方で、マラソン競技の過酷さと魅力を訴える筋や、スヤを演じる綾瀬はるかなどは視聴者から好評を得ているようだ。
低視聴率ながら、『いだてん』のファン層は確かにいるのだ。
NHKは、6月から斉藤工や黒島結菜など、新しい俳優を投入して巻き返しを図っている。
だが、やはり根本にあるのはクドカンの脚本だ。
その構成が大抵の五輪のマラソンコースのようにシンプルかつ明瞭になれば、2020年の東京五輪が近づく追い風に乗って、驚異的な追い上げを見せるのではないか。
その可能性はゼロではない。
大河ドラマは、それ自体が時代遅れになったという見方も広がりつつある。
『いだてん』はその悪い流れに拍車をかけるのか、それとも新風を吹き込めるのか。NHKは大きな分岐点を迎えている。
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