お笑い芸人たちが1人舞台でピン芸を競う『R-1ぐらんぷり』。
今年2020年はコロナウィルス感染拡大防止のため無観客でTVの生中継が行われることで例年よりも注目を浴びたといえる。
しかし実際ふたを開けてみると関東地方では視聴率が7.1パーセント。
これは20年近くにわたる過去18大会の中でワースト記録である。
過去3年は9パーセント前後だっただけに急落したともいえる。
「Yahoo!テレビ」などのネットレビューでも酷評が目立つ。
この原因は明らかに無観客にあるのではない。
ただ単純に芸のレベルが低かったことにある。
もっといえば芸のレベルに大きな偏りがある組み分けにあったといえるだろう。
ここからは『R-1ぐらんぷり』2020の総括と低レベルの中でも光った珠玉ネタのレビューを勝手気ままにやってゆきたい。
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無観客でもノープロプロブレム
審査委員長の桂文枝が番組の最後に言ったよう今回、無観客であることはほとんど問題にはならなかったといえるだろう。
確かに笑い声の少なさで大会が盛り下がった面もあるし、それによって不利になった芸人もいる。
勢いのある裸芸のななまがり森下や客を直接相手にする芸風だったワタリ119。
彼らは観客がいれば大きな波を作れてそれがTVからのお茶の間票やツイッター票に反映されていたのかもしれない。
しかし芸の本質を見抜く審査員たちの票は得られなかっただろう。
何より勢いだけでは通のお笑い好きの視聴者を満足させることもできなかった。
ワタリ119は生放送を生かし、3分以内で100枚以上のフリップをめくるというスリリングかつ独創的な芸を披露した。
だが後に文枝が指摘したよう、時間が余ったことで芸が台無しになってしまった。
せめて余った時間を土下座して視聴者に謝るなどオモシロおかしく埋めていれば良かった。
このように勝てなかった芸人には勢い以外の点で何らかの敗退理由があったのだ。
会場にはスタッフが大勢いてその笑い方がわざとらしいという批判がネット上に上がっている。
確かに番組関係者らしい忖度笑いだったが、それは観客を入れても同じこと。
私には彼らの慎ましい笑い声はむしろR-1の舞台を引き締めているように感じられた。
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無観客よりも組み分けのまずさが大ダメージに
今回『R-1ぐらんぷり』を見たほとんどの視聴者は笑えなかったいう事と共に、「組み合わせが悪い」と感じたのではないだろうか。
大会は芸人をA・B・Cと予選ブロックに組み分け、勝者3人を決勝で競わせるシステムになっている。
今回明らかにAとBブロックが共にひどかった。
8人の中まともな芸を見せたのは優勝者のマヂカルラブリー野田・クリスタルだけだったといえるだろう。
最初の8人でつまずいたことで一気にTVから視聴者が離れてしまったのではないだろうか。
ただでさえ日曜の8時枠はTV視聴率・最激戦区である。
しかし、Cブロックの4人はハズレなしといえるほど精鋭ぞろいだった。
生の視聴者にはここを見落とした人が多かったのではないか。
Cブロックの芸人たちを他ブロックに分けていれば決勝戦はおそらく、おいでやす小田・ワタリ119・大谷健太になっていただろう。
この3人の決勝戦を望んだ視聴者は数多くいたはずである。
おそらく番組スタッフはただの抽選でABCの組み分けをしているのではないか。
であれば次回からはちゃんと芸のレベルをも考慮して組み分けをしなければならない。
テニスなどスポーツの多くのトーナメントは大会が盛り下がらないようトップ選手を分けて組み分けしている。
私の見たところ今大会のR-1ほど組み分けのまずさが前面に出たときはなかった。
結局、今大会は皮肉にも無観客よりもこの組み分けのいい加減さの方がより大きな障害になったといえる。
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今大会の最大の掘り出しもの・大谷健太
大谷健太は敗者復活枠から決勝ステージにあがったが、サンシャイン池崎などの有名芸人を差し置いて彼をチョイスした選考委員はすばらしい。
その理由は大谷のステージで充分に理解できた。
準決勝・Cブロックではワタリ119が大きな笑いを取り、その時点でほぼ決勝進出を決めていた。
それだけに次に続いた大谷には多くの視聴者が冷ややかな目を向けていたはずだ。
だが彼はそのみごとな芸でワタリの勢いをかき消した。
それは「シュール早口言葉」とでもいえるものだ。
絵力で笑わせる紙芝居風の進行はピン芸の王道ながら、そのスタイルは斬新だった。
まずシュールな絵を見せ、その説明を言いにくい短文で表現する。
私のお気に入りは
「バス・ガス爆発を見てパグ抱く白髪」
「北からキャタピュラ・カピバラが来た」
「急にキュウリ9本食う子・急増」
これは参加型のピン芸でもあり、録画で見た視聴者は少なからず停止してこの早口言葉にチャレンジしたのではないだろうか。
シュールネタは行き過ぎることもあるが、大谷には人の理解ギリギリの所で留めるセンスが合った。
さらに絵力とその言語表現力もさることながら、間と表情も生きていた。
大谷は絵を見せたあと視聴者に考える間を少し与える。
そして早口言葉のあとに事件を報じたあとのニュースキャスターのような深刻な表情をみせる。
こういった細かい工夫も笑いを増幅させる要素だ。
さらに後半では時間を逆戻りさせ、それまで出した絵と短文をうまく融合させて見せた。
構成力まで見せつけたという訳である。
これには審査員の1人・陣内智則も見終えた直後「すごい」ともらしていた。
ただ大谷の決勝ネタの2コマ漫画は当たり外れのある残念なものだった。
「シュール早口言葉」を決勝でもやるべきだっただろう。
去年のM-1を獲ったミルクボーイも準決勝と決勝のネタはまったく同じスタイルのものだった。
スタイルが同じなら2つ目の質が落ちても大体は受けるもの。
ここは大谷の大きな失敗だっただろう。
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恥を惜しみなくさらした優勝者・マヂカルラブリー野田
優勝したマヂカルラブリー野田・クリスタルはその必勝戦略を知っていたのだろう。
自分のゲームで遊ぶというシュールネタを準決勝・決勝でそろえたのだ。
しかも決勝のエロゲームの方がオモシロかった。
このネタの最大のポイントはスマホゲームという1人でひっそりやるものを思い切り人前でやるという豪快さにあるだろう。
しかもエロゲーというのはあまりに恥ずかしいものなので人には絶対に言えないものである。
野田はそれを逆手にとり、大っぴらにエロゲーをやることで笑いを取ったのだ。
しかもエロゲーの女がまったく性欲をそそらない粗悪なゲーム画像なので、ゲーマーの情けなさが際立ちより笑いを誘っていた。
ここには自分の恥を惜しみなくさらけ出すというコメディの本質も宿っている。
決勝の他の2人と較べると、この優勝にはほとんど異論はないだろう。
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お笑いはただ笑いを取ればいいものではない
去年は粗品への優遇が明らかに働いていたが、今大会はジャッジの仕方が適切だったと思える。
TV視聴者の票に加えツイッター票も入れたことで一般ポイントが6に伸び、かつ同点の場合は一般ポイントの多いほうが勝つ民主的なシステムだった。
さらに審査委員がプロならではの判断を働かせて時に一般票をくつがえす結果を出したのもいい。
ワタリ119は一般票ではトップだったが審査員票で大谷に逆転負けした。
この判断は正しかっただろう。
ネタそのものとして明らかに大谷の方が新しく、さらに時間と知恵がより注がれたものだった。
負けた人たちにも納得がいった。
私は、おいでやす小田のネタに今大会の中、最も笑わされた。
だが同じブロックのワタリや大谷には質として劣るものだった。
審査員にも指摘されたが暴力団の教育係という役どころがあまりに恐い。
巻き舌で「らりるれろ」を伸ばすのは本当に爆笑を誘うものだったが、ネタとしては結局それだけ。
全体的に小田の爆発的なキャラクター力に頼るものだった。
お笑いとはただ笑いを取ればいいだけのものではない。
風刺アートとお茶の間の平行線
無観客ということで今回、私はピン芸がアートの領域に近づくのではとも期待していた。
それに一番近かったのはヒューマン中村の「受信料請求の妖精」である。
難しく言えばこれは個人の内面のある種、病的なモノローグを外部化し、そこにNHKの受信料への社会風刺をこめたものだった。
とても実験的なネタだったがやはりTVの笑いには相容れないものだったといえる。
彼の失敗によって特に風刺の効いたアートはお茶の間と、どこまでいっても平行線だということに気づかされた。
しかしネット上でも話題になっているよう、この中村のネタに審査員票が一票も入らなかったのは明らかにNHKへの忖度だったといえる。
芸の質の高さから見てもプロの芸人たちが完無視するのは明らかに不自然だ。
無観客開催の『R-1ぐらんぷり』2020。
全般的にひどく低レベルだったが光るピン芸もちゃんとあり、私は満足させられた。
無観客であることも大問題にはならなかった。
観客はあくまで笑いの起爆剤であり、芸そのものを生み出すものではないのだ。
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