香港デモの成功理由とは?中国の弾圧に対する市民の危機感や怒りの原動力を徹底解説
今、香港が大いに揺れている。
それは超大国、中国をも震撼させ、世界情勢にも波風を立てるまでになった。
キッカケは、香港政府が提起した「逃亡犯条例」の改正案だった。
これは香港の犯罪容疑者を中国に引き渡すことを可能にするものであり、一見、何でもないことのように思える。
だが、これは実質的に香港市民、1人1人の身の安全を脅かす法案になりうるものなのだ。
2019年6月17日の日曜日、香港市民は200万人という歴史的な規模のデモを起こした。
その恐るべき数は、彼らが今どれだけ身に迫る危機を感じているかを示している。
これを受け香港政府トップの林鄭月娥(英名:キャリー・ラム)行政長官は17日、改正案の無期限延期を発表。
が、それでもデモが続いたことから18日、「自らの任期中に(改正案の)成立の可能性は低い」と発言し、事実上の廃案を示唆した。
だが、改正案の撤回と行政長官の辞任を求める香港市民の多くは依然、デモの続行を明言している。
今年最大のニュースにもなりそうなこの香港デモは、なぜ起こり、なぜここまで拡大したのか。
その爆発的な怒りの源には一体何があるのだろうか。
5年前の雨傘運動との対比や、雨傘運動の女神、周庭(英名:アグネス・チョウ)の言葉などを通じて、それを探ってゆきたい。
スポンサーリンク
雨傘運動との違いは、市民が感じる切実な恐怖
2014年、香港では「雨傘運動」と呼ばれる大規模な市民デモが行われた。
市民が、政府トップの行政長官を民主的に決められる普通選挙の実現を求めてのことだった。
それまでの香港では、中国に操られた政治家が大半を占める議会によって長官が決められていた。
つまり、それは日本のように選挙で勝った政治家が国民に代わって政府のトップを決める間接選挙ですらない。
市民が自分たちのリーダーを間接的にでも決められないということだ。
デモは数十万人規模になり2ヶ月以上も続けられたが、中国と香港当局による強制排除によって制圧された。
失敗に終わった雨傘運動と、今回、勢いを増し続ける200万人デモでは何が違うのか。
TVでもネットでも、識者たちは口をそろえて「雨傘は新たな自由を求めてのデモであり、今回は今ある自由を奪われないためのデモだ」といったことを語っている。
確かにその通りだ。
だが、自由や人権を取り戻すという美辞麗句だけでは、香港市民の4人に1人をデモに参加させることはできない。
その本質には、身の危険という切実な恐怖があるのだ。
⇒逃亡犯条例とは?香港のデモが中国に与える政治的影響を詳しく解説!
⇒リンチーリンの出演作と経歴は?ドラマや映画の代表作と年収も!
⇒漫画村が復活?不正広告とモラルを疑う存在意義!海賊版の与える作家への影響は?
アイドル運動家、アグネスが代弁する香港市民の抱える恐怖
雨傘運動の女神とも呼ばれる香港の女子大生がいる。名前は周庭(英名:アグネス・チョウ)。
そのカワイさと親日派であることから、日本でも人気の運動家、アクティビストであり、雨傘運動での逮捕歴もある。
周庭は今回のデモを受け、ある日本のインタビューで「(改正案が)可決されたら、中国共産党に批判的な香港人が中国に引き渡されるかもしれません」と語り、さらにこうも言う。
「(香港で)収監されるだけならまだしも、中国に引き渡されたら……想像できないです。生きて出られるかすらも、わかりません。怖いですね」
この周庭の危機感が、まさに香港の200万人デモの原動力になったものである。
彼らは今ある自由を奪われないために戦っているというよりも、今ある身の安全を奪われないに戦っていると言える。
つまり、命を守るための決死の戦いなのだ。
香港市民の胸のうちは、おそらくこういうものだろう。
改正案が可決されれば、中国や香港政府を批判しただけで捕まるかもしれない。
デモはもちろんダメ、SNS上のメッセージ、家庭内や友達との話でさえ監視されるんじゃないか。
もし当局にマークされれば、あらぬ容疑をでっちあげられ、逮捕された末に中国に引き渡されるのではないか。
こういう香港市民の危機感が、200万人デモを引き起こしたのだ。
スポンサーリンク
賢くなったポスト雨傘世代と自由参加のリゾーム・デモ
今回のデモはポスト雨傘世代と呼ばれる若者が主導して行われたものだという。
そして、デモの成功のカギには彼らが香港当局を徹底して信じていないことがあると言われている。
雨傘のときには当局によって市民のネット上のやり取りが監視されていたため、運動を事前に把握されて容易に鎮圧されることになった。
ポスト雨傘世代は、同じ過ちを繰り返さなかった。
追跡不可能なメッセージアプリを利用したり、当局に拘束されやすい自宅や病院に留まるのを避けたり、自分たちで負傷を治せるように医薬品を集めたりしている。
しかし、成功の最たるカギは、切実な恐怖を市民全体が共有したことだろう。
それによってデモや政治には無関心な市民も、外のデモを見てちょっと自分も参加せねば的なモードになったのだ。
この自由参加型のデモは、まさにデモの理想系だ。
哲学用語を使えば、それはリゾーム(草の根)的な体系だ。
そこには中心がなく、ただ木や草の根っこのように自由に広がり、自由に結ぶついてゆく。
リゾーム的に自然発生するものは、最もコントロールが効かないものである。
⇒幻冬舎の百田尚樹と津原泰水の待遇の差は?原因の日本国紀は出版業界の象徴?
⇒丸山議員と北方領土問題!ロシアと戦争?発言には共感か議員辞職か?
⇒村田諒太のラストマッチ?王者ロブ・ブラント戦のチケットの価値は?
当たり前の奇跡が、すぐそこにある香港
中国は今後も、香港のデモを制圧できないだろう。
ただでさえ、中国は今、グローバリゼーションでがんじがらめになっている。
香港経済の財界人たちは、安定市場を取り戻したいので、市民デモを応援している。
香港は中国にマネーという甘い蜜を届け続けるお得意様だ。
中国は、独裁よりも甘い蜜を取るだろう。
何しろ、香港のデモを武力で鎮圧すれば、香港からも世界からも中国に甘い蜜が届かなくなるのだ。
くまのプーさんに似た国家主席は、それをガマンできないだろう。
現在、放送中のNHKのあさドラ『なつぞら』では、元警官のアニメーターがヒロインのなつに、警察を辞めてまである少女を救ったことについて話したあと、最後にこう付け加える。
「奇跡っていうのは、当たり前のことをしたときに生まれるもんなんだよ」
香港のデモもまさにそれだ。
中国の管理下にある香港で、デモによって政府の主要政策が変わることは一種の奇跡である。
そして、それは市民が政府に脅えることなく生きていきたいという当たり前の願いを実現させるためにやった結果なのだ。
そんな当たり前の奇跡は、もうじき今週末にでも香港市民の目の前で起こることだろう。
スポンサーリンク